スピードマスターの歴史は、1957年にスポーツ・レーシング・クロノグラフとして発表され、オメガがオリンピック大会の公式計時を担当する地位を確立した時にまで遡ります。
スピードマスター」の名称は、タキメーターベゼルを採用し、「シーマスター」など他のモデルに用いられているオメガの慣例に倣ったもので、元々「スピードマスター」は「シーマスター」ラインと「レールマスター」の一部であった。
スピードマスター」のファーストモデル、CK2915（通称「ブロードアロー」）は、スイス人のクロード・バイヨーがデザインし、トリプルレジスタークロノグラフレイアウト、ハイコントラストなインデックス、ドーム型プレキシグラスクリスタルなど、このモデルの典型的な特徴をすでに備えていました。文字盤は、完璧なバランスとプロポーションの見本でした。直線的なラグ、大きな矢印型の針、ベゼルはスチール製で、黒のプリントを刻印したモデルである。ケース径は39mmである。
スピードマスターの原点
ムーブメントには、1942年にオメガと当時のオメガの子会社であったレマニアの共同プロジェクトとして発表されたキャリバー321が選ばれた。キャリバー321は、コラムホイール式サイドクラッチ・クロノグラフの最も優れた例の一つとして知られています。ブレゲ、パテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンの各種クロノグラフの基本ムーブメントとして採用された。1946年には、後にNASAのテストに合格するために非常に重要であった耐磁性、耐衝撃性を追加し、さらに改良されたムーブメントを開発した。
1959年には、アルファ針とブラックアルミニウムベゼルを採用し、視認性を向上させた「スピードマスター」のセカンドバージョン（リファレンスCK2998）が発表されました。ケース径は39mmから40mmに拡大され、オメガは初めてプッシュボタンの周りにOリングを追加し、防水性を向上させた。
そしてついに、1962年のST 105.002、1963年のST 105.003で、オメガはスピードマスターの代表的な針を発表したのである。
同年、クロノグラフのプッシュボタンとリュウズを保護する非対称の42mmケースも発表されました。このケースは、ほとんど手を加えることなく、現在も生産されています。1965年夏、文字盤のスピードマスターロゴの下にプロフェッショナルマークが登場した。
初めて有人宇宙飛行を行った時代である。
マーキュリー単独宇宙計画はほぼ完了し（ウォーリー・シラー宇宙飛行士は1962年10月3日のマーキュリー飛行でスピードマスター Ref.CK 2998を着用）、NASAはジェミニとアポロ計画の準備を進めていたのです。これらのミッションに参加した宇宙飛行士は、船外で宇宙空間を移動しなければならないため、宇宙の過酷な環境に耐える腕時計が必要だった。
1962年頃からNASAは、宇宙飛行士に最適な時計を提供するため、匿名でさまざまなブランドのクロノグラフを購入しました。
1964年、すべての前提条件を満たした時計がNASAに正式に購入され、「認定試験手順」と呼ばれる一連の試験と審査が行われた。この厳しい予備選考を勝ち抜いたのは、6つのクロノグラフのうち3つだけだった。そして、最終選考に残った作品は、時計製造の歴史上最も厳しいテストにかけられました。
1965年3月1日、テスト結果が終了し、オメガ・スピードマスターだけが合格した。当時、NASAのテスト担当者は、「選ばれた3つのクロノグラフの動作テストと環境テストが完了し、このテストの結果、オメガ・クロノグラフは校正されて3人のジェミニ・タイタン3号の乗組員に支給された」と記しています。
NASAのエンジニアで資格試験を担当したジェームス・ラガンは、「時計はバックアッププランだった」とスピードマスターの重要性を語っている。もし、宇宙飛行士が地上での会話や、月面でデジタルタイマーを使えなくなったら、頼れるのは腕にはめたオメガの時計だけになってしまう。何かあったときのために、そこにあるべきものだったのです。
不思議なことに、オメガがスピードマスターの宇宙への旅を知ったのは、1965年6月のジェミニ4号ミッションでアメリカ人初の宇宙遊泳を行った際に撮影されたエド・ホワイトの写真を見た後でした。時計は、長いナイロン製のストラップをマジックテープで固定して腕に装着していた。
この発見を受け、オメガは商品名に「Professional」を追加することを決定し、「オメガ スピードマスター プロフェッショナル」となったのである。
スペースウォッチ
1969年7月20日、人類初の有人月面着陸は、確かに人類史上最も壮大な科学的成果の一つであった。初めて月面に降り立ったニール・アームストロング。月着陸船の電子計時システムが正常に作動しなかったため、アームストロングは信頼できるバックアップとして時計を搭載したままにしておいた。19分後、バズ・オルドリンと合流した。オルドリンは、月面で初めて着用したオメガ「スピードマスター プロフェッショナル」を身につけていた。ムーブメントはキャリバー321で、オメガのスピードマスター・プロフェッショナルである。この任務の数ヵ月後、バズの時計が盗まれ、そのまま行方不明になってしまった。
同年、オメガは月面着陸の英雄たちへのオマージュとして、「スピードマスター BA145.022」を製作しました。このモデルは18Kイエローゴールド製で、珍しいワインレッドのベゼルを採用し、ケースバックには「to mark man's conquest of space with time, through time, in time」と刻まれている。
このゴールドのスピードマスターは、キャリバー861を搭載し、1969年から1973年にかけて1,014本のみ生産されたオメガ初の記念すべきナンバー入りモデルです。1号はリチャード・ニクソン大統領、2号はスピロ・アグニュー副大統領のために作られた。しかし、これらの時計は、アメリカ政府の厳しい寄贈規定によって、後にオメガに返却された。モデルナンバー3から28は、NASAの宇宙飛行士に贈られたものです。29から32の時計は、スイスの時計業界の重役や政治家に贈られたもので、数字が刻印されていない。33から1000までの型番を一般の方が購入する機会がありました。
また、この快挙を記念して、「スピードマスター プロフェッショナル」のケースバックが変更されました。シーホースの刻印を外し、「月面で着用された最初の時計」「すべての有人宇宙ミッションのためのNASA認定飛行」というフレーズを刻印したのである。その後、1971年に本文のレイアウトが変更され、背面にもシーホースが描かれるようになった。このケースバックのデザインは、現在でも「スピードマスター プロフェッショナル」に採用されています。
1970年、電気系統の故障によりアポロ13号が爆発し、乗組員が電力節約のために小さな月着陸船アクエリアスに避難しなければならなかったとき、パイロットのジャック・スウィガートはスピードマスターを使って、再突入に向けてシャトルを傾けるために必要な14秒間のエンジン推力を正確に計算したのでした。この功績が認められ、オメガは「アメリカ初の有人月面着陸プロジェクトにおける献身、プロフェッショナリズム、優れた貢献に対して」アポロ13号宇宙飛行士スヌーピー賞を受賞しました。
後者については、ジャック・スウィゲルトが実際にスピードマスター・プロフェッショナルを使って14秒間のエンジン推力を計算したのか、それとも、いくつかの写真にあるように、月へ行くために着替える前に着ていた私物のロレックスGMTマスターを使ったのか、まだ議論があることを指摘しておく必要がある。スウィゲルトが公式見解を否定していない以上、彼がミッション中にスピードマスターを着用していたと考えない理由はないだろう。
宇宙開発が新たな地平を切り開く中、オメガ スピードマスター プロフェッショナルは、再度厳しいテストを経て、1978年にNASAによって新しいスペースシャトル計画の公式クロノグラフとして採用されました。その後、1993年7月から1994年7月にかけて、ロシアの宇宙ステーション「ミール」において、スピードマスターはさらに過酷なテストが行われた。この例外的な耐久試験の成功は、MIRクルーの署名入りの証明書によって証明された。オメガ スピードマスター プロフェッショナルは、世界で最もテストされた時計となった。
オメガは、自動巻きモデルや小型化、プレキシガラスの代わりにサファイアクリスタルを使用したバージョン、さらにダイヤルカラーやケースメタルの違いなど、さまざまなバリエーションを生み出しました。
オメガは、NASAの様々な宇宙ミッションの記念日を祝うために、「スピードマスター プロフェッショナル」の限定モデルもいくつか発表しています。2009年、オメガ スピードマスター プロフェッショナル ムーンウォッチ アポロ11号 "40周年 "限定モデルは、人類初の月面着陸を記念して、ステンレススチールと（7,969本）、プラチナと18Kイエローゴールド（69本）の2モデルが発表されました。
2019年、歴史的なアポロ11号ミッションと初の月面着陸から50周年を記念して、オメガは50周年記念限定モデル「スピードマスター アポロ11号」2本を発表しました。オメガは現在、2030年に予定されている、気温-133℃から27℃の火星へのミッションで人間に同行できるスピードマスターを設計しています。
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